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利休百首の解説ページ ・・(8)
- 花入れの折釘うつは地敷居より 三尺三寸五分餘もあり
- 花入れの折釘を打つのは、床正面の壁中央に打つので、これを中釘ともいう。
- 中釘を打つ位置は、とこの大小によって、多少の違いはあるが、地敷居から、三尺三寸五分(約一メートル)の高さのところに打つのである。中釘に花入れをかけるのは、茶事のとき、初入れに掛物だけを掛け、後入れには掛物をはずして、花入れを中釘にかける。
- 花入れに大小あらば見合わせよ かねをはずして打つがかねなり
- 花入れの折釘を打つのに、前の寸法を固守してはいけない。
- 花入れの大小により、また床の肯定大小により、柱や壁に打つ釘の位置が変わらなくてはならない。定まった寸法は寸法だが、また実地に合わして、定まった寸法を破るのも生きた寸法である。
- 竹釘は皮目を上にうつぞかし 皮目を下になすこともあり
- 床や洞庫の中や棚などに、竹釘を使用する場合が多いが、どの竹釘も、皮目を上にしてうつのが原則である。しかし、その竹釘にかけるものによって、皮目を下にするほうが便利なこともある。利休の教えは、皮目を上にするので、古田織部なども、皮目を上にしたが、遠州、金森宗和などは、皮目を下にしている。
- 三つ釘は中の釘より両脇と 二つわりなるまんなかに打て
- 床の掛物を掛ける釘は、普通中央に一本打つだけだが、時には、三つ釘を打つことがある。これは横幅の広い、いわゆる大横物を掛ける必要からである。両横の日本の釘を打つ位置は、中央の釘から床の右端までの中央、同様に床の左端までの中央に打つ。
- 大横物を掛ける時に、賭け緒が三つあるから、初めに中央を掛け、次に左、そして右と掛け、最後に中央をはずすのである。
- 三幅の軸をかけるは中をかけ 軸さきをかけ次は軸もと
- 三幅の掛物を床に掛けるには、まず中央の軸をかけ、次に軸先を、すなわち上座になるものを掛け、最後に軸元、すなわち下座になるものを掛ける。
- 軸先というのは、掛物の書き出しのほう、軸元とは書き終わりのほうを言うので、中央は、軸脇とか軸前という名がつけられている。
- 掛物をかけて置くには壁付を 三四分すかしておくことゝきく
- 掛物を掛けるのに、壁にぴったりつけると、壁も損じ、掛物も損じるから、壁と掛物の間を、三、四分(約九ミリ)すかしておくとよい。
- 時ならず客の来らば点前をば 心は草にわざを慎しめ
「時ならず客」は、不時の客、すなわち不意のきゃくである。こんな客には、ご馳走の方法もなし、さりとて万事粗忽にしては失礼になる。
そこでせめて点前だけは、充分慎んで丁寧にして、客をもてなせよと、教えている。
「心は草に」とは、客は突然訪れたことに恐縮するだろうから、そんな気持ちを抱かせぬよう、うちとけて客に接するようせよ、ということであろう。しかし、そのうちとけた中に、点前だけは丁寧にする、ということは、むつかしいことだと思う。
- 花見よりかへりの人に茶の湯せば 花鳥の絵をも花も置まじ
おなじことを、何度も繰り返されると、くどいとか、しつこいとかいう。どんな楽しいことでも、なんどもそれがかさなると、嫌気のさすものである。
花見へいってきた、という人を客に、釜を懸けて招くのに、床や花や鳥の絵の掛物をかけて、前に花を生けても、本当の鳥の声を聞き、咲き乱れた実物の花を見てきた人には、何のご馳走にもならない。
これは花見帰りの人に限定しなくても、桜の咲く頃の月例茶会のとりあわせでもおなじことである。桜が咲いているからといって、床に桜の絵をかけたりしたのでは面白くない。外景の実物の桜に関連した道具を趣向するようにすれば、席中の道具も生きてくるし、外景の桜も一層くっきりと浮かび上がってくるのではなかろうか。
- 花入れに舟形がある。 竹や砂張で作られ、 藤づるや鎖で、つるすようになっている。その花入れを床につる際の心得である。
- もちろん床の天井に打ってある釘から、鎖をつるして、それに掛けるのであるが、その鎖の長さ、床の都合で、出船としたり入船としたり、または浮き舟としたりする。
- 出船というのは、軸先にあたるほうを、明かり口(光線がさしてくる方)へ向けるので、入船はその反対である。つまり、光線のさしてくる方を、海の沖と考えているのである。浮き船は、泊り舟ともいうが、これは、天井から鎖でつらず、床の上に鎖をたばね、それへ小さな錨でも置いて、舟の花入れをもたせかけ、海岸へ引き上げた舟か、または、港に碇泊している舟を、連想させるのである。
- 壺などを床に飾らん心あらば 花より上にかざりおくべし
- 口切の茶事には、初入の床に、網をかけた葉茶壷をかざっておく。そして茶壷の口を切り後入には、緒をかけた茶壷をかざる。
- 後入れには、床に花入れがかざってあるわけだが、茶壷は、花入れよりも上座のほうへかざるのである。というのがこの歌の主旨であるが、口切の茶事に限らず「壺飾付花月」などの場合も床に花入れがあるときは、花入れよりも上座に壺をかざるのである。
利休百首
井口海仙著 より
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